【猫の思想】パソコンとダンボール
今日も人間が家にいる。なんなら一回も外へ出ないのではないだろうか。人間は椅子にずっとすわって、机の上の機械を10本の指で何回も高速で叩いていた。なんだか指が生きているみたいだ。人間は2回目の食事を終えて、熱そうな真っ黒い水を少しずつ飲んでいる。
「人間は変わった飲み方をするなあ。」
以前にも紹介したが、僕は機械が基本的に嫌いだ。絶対に一回は驚かしてくるからだ。しかし、この機械は違う。板の裏にはリンゴが食べかけの状態で光っていて、なんだか親近感がある。光っているだけで静かでたまに鳴いてはいるが小さいから耳にも優しい。
「この機械はスマートだにゃ。」
これに向かうとき、人間はとても集中している。ちょっとやそっとのことでは、全く相手にしてもらえない。必殺奥義の一つ、スリスリを何度してもだめだ。少し拗ねてしばらく遠くで観察していても、ずっと板に張り付いている。
「ちょっとは遊んでよ。」
こんな感情にしてくる人間に心底腹が立つ。どうしてあんな人間のためにイライラしなきゃいけないのだ。僕は機械に負ける存在なのか。こんなことを思いながら、差し足忍足であの機会に近づき、人間が何やら叩いている黒いところに寝転んでやった。
「ほら、これでもくらえ。」
さすがに僕に注意を向けてくれたが、すぐ横にどかされて、間髪入れず機械を叩き出した。
「完敗だ。機械に負けた。」
ショックのあまり階段を登って空の見える場所に移動し、暖かい太陽さんに慰めてもらった。絶対に呼ばれても返事なんてしてやるものか。そんなことを考えているうちに意識がなくなっていった。
カラスの鳴き声で目が覚めた。どれくらい寝たのだろうか、太陽さんの顔が半分見えていない。そらが赤く照れていたが、僕の心はかなり濃い青だ。一眠りしたが、人間はまだ作業をしている。
「人間の集中力は測りし得ないにゃ。」
僕や僕の友達は、せいぜい数分しか集中力はもたない。何かとすぐに飽きてしまうのも、僕と遊んだ人間ならわかるだろう。遊んでいてもある程度で満足するのだ。
「あれ何処かへ出かけて行った。」
結局、僕が起きてきてからも、壁の小屋から小鳥が二回顔を出していた。あのうるさい機械がピンポーンと大きく鳴いた時は、すぐさま帰ってくる。何かしらこの機械と人間の外出には関係があるのかと天才的な発想をしたが、数秒後には忘れてしまった。
「難しいことはわからないにゃ。」
人間は大きなダンボールを持って帰ってきた。どうやら誰かに運んでもらったみたいだが、なんていい友達なんだ。こんなに重たそうなものを運んでくれるのだから。だが、そんなことはどうでもいいのだ。なぜなら、楽しい楽しい時間のはじまりだからだ。
いかんいかんあくまで冷静に。
僕はダンボールが大好きだ。ダンボールの香りはとってもいい。出来立てのものほどいい香りがする。その上、あのスベスベともザラザラとも言い難い手触りがなんだか落ち着く。人間は中の物にしか興味がないから、開けてもらったら一番乗りにあの中へ飛び込める。
「ダンボールへ、一番乗り〜!」
今回も期待通りにいい香りがする。今日はこの中で寝ようかな。いややっぱりやめた。この箱は大きすぎてちょっと寝るには落ち着かない。
「もう少し小くてフィットする大きさがいいな。」
でもダンボールの感覚を忘れられず、お気に入りの紙袋に移動した。
「うん、やっぱりこれが最高だ。」
まだ、食べかけのリンゴが光っている。その光が徐々に小さくなって行った。