【猫の思想】夏、到来
自粛とはいえ、梲が上がらぬ今日この頃。
いつもは時間を渇望し慌てている人間の、現在の生活の様と言ったら、ほとんど私と変わらない。とっても満足していると思ったが、どこか楽しそうにない。
「ひねもす寝ている以上に楽しいことはないのに、わかっていないなあ。」
ようやくジメジメとした日々が終わったのかなと思ったら、急に暑くて汗が止まらない。とは言っても、あそこでパソコンをカチカチ言わせている人間ほどではないのだが。人間は毛が薄くて、すごく涼しそうなのにすごく汗をかく生き物だと常々思わされる。
「あいつはさっきお風呂に入っていたのか?」
我々だってしっかり汗を掻くことをもう一度言っておく。毛が多くてなかなか観察できないだろうが、しっかり汗をかいて体温調節をしている。しかし、人間ほど汗による体温調節に依存しているわけではないだけなのだ。
「暑いんだから動かないのが一番だにゃ。」
最近は避暑地で過ごすことが多い。避暑地と言っても玄関の石タイルのことではあるが。
「ここの床はいつも冷たいんだよな。」
枕草子で夏がどう言及されているか知っているだろうか。『夏は夜』である。夜になると生暖かいとはいえやや涼しくなるからいいんだよなあ。風があるとなおもよしだ。だが、昔の人は我慢したにだろうか、月がいい、暗闇がいい、蛍がいいだなんてかいている。
「どこがいいんだろうか?」
だけど、我慢できなくなったんだろうな、この一節の続きに『雨など降るもをかし』とある。やっぱり雨が降って気温が少しでもさがっている状態をよしとしている。
「雨降っても気温下がらないこともあるけどそこは気にしないでおこう。」
おっと、最近勉強している難しい言葉を並べてみたが、なんだかしっくりしないなあ。やっぱり、私に一番似合っている言葉は「にゃあ。」これに尽きる。
この言葉はすごく便利だ。人間とはこの言葉だけで会話が成り立つ。
「もうご飯?さっき食べたばっかりなのに!」
「にゃあ。」
「えぇ、もうしょうがないなあ。」
この一言と、勝手に動く尻尾のダブルパンチで人間なんて一発KO。なんなら足元すりすりもおまけにつけてしまえば、もう虜になっている。
「なんてちょろいんだ、人間は。」
今日も、工事の音が響き渡るが、なんだかそれが心地よい。
そしてやっぱりこの石タイルは快適だ。